建築有情

建築有情 (中公新書 471)

建築有情 (中公新書 471)

建築の一方はエンジニアリングでできていて、のこりは「情」でできている。

建築は単に物質の集成体であるだけでなく、そのなかに作る者のあるいは使う者のそれぞれの立場から寄せられる感情とか内面的脈動の相関物であるということである。建築は「無情」のものではなくたしかに「有情」のものである。

都市と建築にまつわる第一部、そして住まいをあつかった第二部という構成。いくつかの雑誌のために書かれた短編(いちエッセイ10ページくらい)からなっているので、とっつきやすいし読みやすい。各題は「駅舎」「開口」「形態」、「暖炉」「家庭」「屋階」などなど。
ところで、本書が1970年代半ばという時期にあって「使う者」という立場を尊重している点はひとつのポイントかもしれない。「ユーザーのコードと一致しない」(とされた)モダニズムの批判としての流れに位置することもできる。のだけど、個人的には「作る者のあるいは使う者の」「感情」と前口上でも言うように、「作る者」まで対象になっている点、永井荷風の見た東京というような文学との横断的な論や、暖炉の女性性なんていう割とジェンダー論的な記述も見られる点、などなどに興味をそそられたりする。あまり単純に分類することがはばかられるのであった。
ちなみに、「開口」の項で言及があった映画と本。どっちも刑務所モノ。要チェック。

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影絵の世界 (平凡社ライブラリー)

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