サマータイムトラベラーその二

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

タイムトラベルものの続き。国道線沿いにブックオフデニーズやらが立ち並んでいるようなどこにでもある都市という背景、地域通貨のシステム不備を是正しようと友人である金持ちの息子を誘拐(狂言)してリアルマネーにものをいわすこと、アリバイ工作としてライフログ化した監視カメラを使用すること、このあたりに関連する(個人的には)ホットなトピックが決定的なところでボケてしまったのはちょっと不満。日常会話で高校生に量子論を語らせている分だけいっそうこのへんのガジェットの消化不良感が増してくる。

そうそう、作中にそのプランと名前だけが登場する建築家「ヴァン・デル・コールハース/コールハス」という名前にミースとコールハースを喚起されずにはいないのだが、この建築家の都市計画(この点ミースよりもコルビュジエの方がよかったのではと邪推してみる)が過去のものとなり、回想のなかだけで出てくることは一つのポイントになるのかもしれない。均質化如何は別としても現代の都市において根本的に経済ドリブン以外で進む都市開発はほとんど無いと言ってもいいように思うし、その点はこの小説でも共通している。その現実以前のあくまでハードのレベルでの都市計画という理想が変な名前のかつての建築家に象徴されているのではないだろうか。都市計画というコントロールが立ち行かなくなった都市のなかで地域共同体は地域通貨という目に見えないフローでつながり、特定の個は監視カメラによって自らの痕跡を残す。両者を等価に考えることは気が早いと思うけど、様々なレベルでのアイデンティティや欲望とそれが寄って立つ根拠に関していろいろ勝手に想像している。

ということでなんだかんだ言って全部読んだ。