物質試行のこと

物質試行49―鈴木了二作品集1973-2007

物質試行49―鈴木了二作品集1973-2007

それ自身にも49というナンバリングがなされた、48番目までの《物質試行》を収録した鈴木了二氏の写真集。

「建築という活動を、竣工という一点に収斂させるのではなく、本来そこで営まれている複数の作業のプロセス自体が、つねに物質試行の対象である。」ただし、その《物質試行》自体はきわめて曖昧なものである。モノとしてあるわけではない、なにか検証のような作業であって、既存の枠組みに安住しない何かを記録する試みだといえるだろうか。その意味では「建築なるもの」でさえ、容易に「建築ならざるもの」へと転化してしまう。逆もある。だから彼の《物質試行》はジャンルを問わない。ナマモノを扱うようなものだろうか。

10+1websiteより「《物質試行》とは何か」1234

そもそもわれわれがモノに向かい合うとき、外的な対象と人間の持つ諸感覚とが接触するわけだが、これは極めて精妙なバランスの上に成り立っている。この奇跡的ではあるが日常に隠されている事実を開示し、なおかつ記録していく試みが《物質試行》である。本書に評を寄せている中谷礼仁氏は、鈴木了二のこうした姿に「風博士」(青空文庫に入ってましたのでリンク)を見る。領域(部屋)内部を瞬間ごとに移動し、その部屋のあらゆる物質を感化せずにはいないのである。

建築零年

建築零年

「建築」とは建てられたモノではなく、そこで起こるイベントであるとすれば、全体を見通せるような「客観的」視点を断念する代わりにそこに参入するという選択が開けてくる。ツルリとしたチェス盤に無しか見ないフビライ汗を諌め、その表面から彼が思いもよらなかっただろういくつもの寓話を紡ぎだすマルコ・ポーロの視点。おそらくこれも一つの《物質試行》であり、またこの視点に貫かれる時空は「零年」に属すだろう。

鈴木氏の「零年」に関してはまた後日・・・