吉村順三のはなし

珠玉の名作住宅を残した吉村順三のすばらしい言葉を100集めたもの

建築は詩―建築家・吉村順三のことば一〇〇

建築は詩―建築家・吉村順三のことば一〇〇

とはいうものの、文脈をごりっと抜かれたまま100の言葉を引かれてもなとはちょっと思う。時代もまちまちだし。だけどプロポーションやスケールに重きを置く氏のスタンスが全体として仄めかされるから吉村順三入門書ならびに建築設計心得としては有効なんじゃなかろうか。ただその中で個人的になんとも面白いと思ったのがこちら。

「住宅の基本形」(『新建築』1968年1月号)
住宅の基本形というのは立方体である。ある明るさがある。そうしてそこに火と水と便所がある。それから植物がどうしても要る。これは一鉢でもいいから要る。それが人間の最低の原型だと思います。(中略)植物はどうしても何らかの形でなくてはいけないと思います。それは庭になったり出窓になったりいろいろするでしょうけれども、どうしても植物はほしいですね。

植物のあり方のバリエーションとして「庭になったり出窓になったり」と言われているはずなんだけど、この並列ってどういう観点から出てきたんだろう。
確かに出窓に植物は置くだろうけど、それはあくまでもニッチ的というかひとつのスペースだから「ベランダ」とかでも代替可能だろう。でもそれを庭と並置させるっていうところに惹かれる。うっかり出た言葉のあやだしわざわざ引っかかることでもなかろうよ、と言われるかもしれないし、それは実際そうかもとも思う。ただ100なり1000なりいわゆる「金言」を膨大に並べられるよりも、ひとつの無意識的(?)な発言から喚起される人となりのほうにずっと興味がある。