出る人出る人キャラが立っていることでおなじみの例の耐震構造計算書偽造事件だが、少し簡素化してその構造を考えてみたい。

建築設計事務所(建築家)の役割としては


1、クライアントの依頼
2、設計
3、施工業者に発注
4、工事監督
5、クライアントへの引渡し
6、メンテナンス


という一連の流れがある。2の設計の時点で下請けの構造設計業者に構造上の耐力をチェックしてもらったりすることや、完成後官公庁にチェックしてもらうための申請をすること、3の施工業者はクライアントの予算に合わせて建築設計事務所(建築家)に変更を申し出たりすること、を注釈としてこれに加えると、今回姉歯が関与した耐震構造計算書偽造事件の側面が明らかになってくる。

今回キーワードとなるのが「姉歯」「木村建設」「ヒューザー」「イーホームズ」である。各媒体のニュースを簡素化してパラフレーズしてみると


○「木村建設」は施工業者に分類され、「姉歯」に指示して構造上削れるところをできるだけ削らせた挙句法外なレベルにまで達してしまったが、「姉歯」も「できないなら別のとこに代える」という脅迫に屈してそのまま提出してしまった。

○「ヒューザー」はマンションの販売会社に分類され、要するにクライアントである。クライアントの予算が結局はすべてものを言い、「姉歯」はそれに見合った設計のために構造計算を偽造してより安価に仕上げた。

○「イーホームズ」は官公庁(国土交通省)管轄のチェック機関(民間だから機関はヘンか)に分類される。「姉歯」は「イーホームズ」の検査が他のチェック機関よりも比較的甘いことを知っており、「イーホームズにしたい」といっていた。案の定「イーホームズ」は「姉歯」が構造計算を偽造したマンションまでオーケーを出してしまった。


というようになる、と思う。今ひとつ現場の状況を知らない僕はこの複雑に分離したシステムをうまくつかめないでいる。でも全体としてのなにか切迫感にも似た焦燥というものは感じられる。『劇的ビフォーアフター』にみられるような「劇的なまでに安価であんなに綺麗になる」というメッセージは実は現実から乖離しているにもかかわらず(うちの父は内装屋である)「理想だけどやればできること」として人々のうちにあること、そしてその点にのみ狙いを定めたメディア戦略――つまり「住まい」という日常最も近しい存在が一生に一度の大きな買い物として多大な注意を喚起する「失敗したくない」、あるいはすでに失敗してしまった「でも綺麗にリフォームできる」、という心理がどこかユートピア的な性格をそのメッセージに付随しているということ、そして大衆は新たな情報を求めるということ――の結果として業界全体の尻が火だらけ、という状態になっているのではないだろうか。そしてそうした現象の捉え方、そしてその現象をカードとして切る、というそれぞれの業者の手つき、というものによって「ああやっぱりな」と建築業界の現状を納得できるのである。

ちょっと印象的すぎるが少し思ったので書いておく。