PCMとはパラノイド・クリティカル・メソッドのこと

唐突も唐突なのだが、建築の本を読んでいるとよくわからないところが度々出てくる。コールハースなんかは逆に分かるところの方が少ないのだが、その中でも特に分からないのが「偏執病的批判方法」である。彼はもともとダリの用語であったこの「PCM」をニューヨーク(特にマンハッタン)のためのマニフェスト作成に用いている。そして具体例は多く、マニフェストのないマンハッタンのためのマニフェストが『錯乱のニューヨーク』である。

錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)

錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)

彼は自らを「マンハッタンのゴーストライター」と称し、マンハッタンを「マンハッタニズム」の産物として位置づけようとする。そしてマンハッタニズムのプログラムとは「完全に人間の手によって捏造された世界の中に暮らすこと、言い換えれば、空想の世界の内で生活すること」である。

で「PCM」である。コールハースはこれを「非合理的なものの征服」と謳っている。そして説明する、「気狂いじみた連想や夢解釈の批判的にして組織的な客体化作業に基づく非合理的な知に関する自然発生的な方法」であると。要するに偏執病とは解釈妄想であって、あらゆる出来事や事実を単一の思考体系に取り込み自らの妄想を確認し強化するのである。方法としては以下の二つの操作の連鎖による。「1、世界を新しい光の元で見る……それに伴う、思いも掛けぬ照応、類推、パターンの豊かな成果。」「2、気体状の思考を、ついに事実としての密度を得るに至る臨界点まで圧縮すること。」そして「PCM」とは「証明不可能な理論的仮定のための証拠の捏造作業」であって、「その証拠を世界に接木する作業」である。

彼のこうした方法論がマンハッタンに用いられる、ということ自体がマンハッタンの性格を多分に語っているのである。陰謀論的な側面もあるな、と思いだすとコルブがコンキスタドール(挫折する)的に読めて仕方がない。僕もまた偏執病的になっているのだろう。