紛争を通しての建築

この本を読むとなんだかどんよーりとした気持ちになる。

建築紛争―行政・司法の崩壊現場 (岩波新書)

建築紛争―行政・司法の崩壊現場 (岩波新書)

著書の五十嵐さんは弁護士、小川さんはジャーナリストである。そのためここに出てくる「建築」とは法規制というシステムの中で組み立てられるある種のプログラムであると言うことができるだろう。この本の趣旨としては現行の建築を巡る行政・司法の崩壊を告発することにある。これは本書を読むときに前提として了解しておかないといけないことだと思う。

建築紛争として真っ先に頭をよぎるのは一昨年(去年じゃなかったんだ)の姉歯さんの耐震偽装事件だが、それ以前に98年の建築法改正によって状況がドラスティックに変わったようで、本書のウエイトは後者の方に置かれる。それが耐震偽装の問題へと与えた影響を述べつつ、景観問題を巡るいくつかの事件を取り上げながら、その背後にある法規制の疑問点が浮き彫りにされていく。要するに建築法がことごとく「建てる側」に有利なものとなっているということである。建設反対があっても建てちゃえば「解体に伴う不都合」が環境に与える影響によって解体自体が不当にされるらしい。そんなばかな。

建築において特殊(他の場合をあまりしらないけど)なのは、法体系の中に取り込むことの困難な「美」「景観」が実は建築紛争において重要なポイントとなっていることだ。

美しい都市・醜い都市―現代景観論 (中公新書ラクレ)

美しい都市・醜い都市―現代景観論 (中公新書ラクレ)

こちらの五十嵐さんも結局のところ体系化しえない「美」や「景観」なるものが官のいいように歪曲されていることを述べている。注意点としては本質的な「美」とか「景観」が官に歪曲されてしまった、というわけではない(前者の書には若干そのきらいがなくもない)。要するにいくつかの対外戦略としてのカードになりさげられたところの「美」や「景観」のあり方について語っているのである。この問に対してもっと生産的に取り組んでみたい、という気は個人的には満々なのである。

メディア報道の偏差は間違いなくあるのでTVを見ながらナイーヴに憤慨している場合ではない。その辺の情報が望まれるところ。