アメリカからのねらい

タイトルが潔い。原題も『モダン・アーキテクチャー』だし。

近代建築 (SD選書)

近代建築 (SD選書)

原著は61年。スカーリーはアメリカの建築史家&批評家で、ルイス・カーンとかロバート・ヴェンチューリなんかの現在に通じる固定的な評価を決定付けた(といってもいいと思う)人だったりする。ヴェンチューリ『建築における複合と対立』の序文を担当しており、プッシュの仕方が半端じゃない。
建築の多様性と対立性 (SD選書174) (SD選書 (174))

建築の多様性と対立性 (SD選書174) (SD選書 (174))

冒頭の本ではその名の通り「近代建築」を論じているのだが、当時までに出版されたギーディオンの『空間・時間・建築』(1941)やゼーヴィの『空間としての建築』(1953)、バンハムの『第一機械時代の理論とデザイン』(1960)、ブレイクの『近代建築の巨匠』(1960)なんかを批判的に消化している。文献改題もおまけでついているのだが、とりわけバンハムの技術決定論的な視座に対してはかなり否定的に語っている。そのためか、オーガニックな点を前景化したゼーヴィなんかとの親縁性を見て取ることもできる。しなくてもいいけど。

第一機械時代の理論とデザイン

第一機械時代の理論とデザイン

というのも、彼の視点はちょっと独特で、アメリカ人だからといっては語弊があるが、ヨーロッパで発祥した近代建築をアメリカから読んでみるというテーマを伴っているのである。出版の時期にはまだミースがシカゴ(だったかな)で活躍しており、ナチがらみで亡命してきたドイツの建築家なんかも腰をすえてプランを展開している頃にあたる。

本書では具体的に、フランク・ロイド・ライトというアメリカの建築家を中心にして考察が進められている。ライトはアメリカ人だが当時のアメリカの建築状況を鑑みると少し異端(経済/芸術みたいなあやふやな感じでとらえてみてもよいかも。ライトは後者)であり、他方でヨーロッパの建築家たちはライトの原理に触発されはしたが、彼の手法に関してはどうにも微妙な態度をとっている。ミースはいい例だと思う。このアンビバレントなかんじを理論的に体系化したのが本書であるといえるだろうか。最終的にはヨーロッパに行って、コルビュジエのロンシャンを褒めて終わる。
コレ
ちょっと気になったのは、スカーリーが「パヴィリオン」の語で示そうと思っているところのものが、結局「ユニヴァーサル・スペース」といえてしまうのではないかということである。要するに使用法を特定しながら機能として空間形成に反映せず、無柱空間にその多様な可能性を残しておくということである。60年代にはまだ「ユニヴァーサル・スペース」の概念はなかったのだろうか。なぞである。