怒れる人々のために

前のエントリでも触れた『建築紛争』の著者二人による本。2003年の出版だからプレ・姉歯ということになるのだが、本書ではそれ以前から続いてきた国の勘違い行政を告発する。

建てる側に優しい規制、正しくは「より巨大なものを建てる」側に優しい規制の成り立ちをその発生から論じており、さらなる「規制緩和」が巨大な建築物の濫立する温床を作ったとしている。「都市再生緊急整備地域」で大規模開発をする民間事業者には建築各法が適用除外され金融支援もされるというのはその代表的なものだといえる。容積率の問題や空中権など比較的専門的な情報まで丁寧に憎しみを込めて書かれているので情報量は多いが、若干読みづらいところもある。

実際、著者らが理想とする「美しい日本」がいかなるものなのか今ひとつ分からないところもある。ただ日本の建築を巡る法制度のあり方に対してどう挑むべきか模索しているところには共感する。彼らは最終章で、1999年から始まった国立(くにたち)での建築紛争をレポしながら、裁判所の判決として「景観権」とでもいうべきものを認める旨が出てきたことに一縷の望みを見出している。これは市民が事業者に勝利した、ということを意味するのみならず、以降参照可能となる前例を生み出した。