和洋混交

日本住宅のインテリア史は家具再編の進行と共にあった。ようだ。

ユカ坐・イス坐―起居様式にみる日本住宅のインテリア史 (住まい学大系)

ユカ坐・イス坐―起居様式にみる日本住宅のインテリア史 (住まい学大系)

日本住宅がユカ坐/イス坐という和洋「二重生活」から「混交生活」へと移行していく様子を論じたもの。通常戦前/戦後等区分して語られてきた大正から昭和末期くらいまでを論考の対象としており、社会的文脈とのかかわりからインテリアを見ている。最終章で各章をざっくりと振り返りながら論を結んでいるのであらすじは第七章だけ読めば理解できる。ただ各章では時系列にそって多彩な例を挙げながら各時節を論じているので資料を眺めるだけでも面白い。

以下はいろいろ(大事なものも)振り払ったざっくばらんな概略。大正期における「漸次イス坐に改めよ」という公的な奨励は二次にわたる世界大戦や日中戦争後の住宅難によってうやむやになる。ところが戦後の高度成長期になると、諸々のメディアによって羨望の的とされた「洋式生活」が普及し始める。例えば「リビング」「ダイニングキッチン」をもつnLDKの「団地」、あるいは「応接セット」「ソファ」などが爆発的に人気となり、ユカ坐からイス坐への自発的な移行が見られるようになる。ただ一般的な部屋の広さは欧米と比較しても狭いままであったため、家具の導入により余裕がなくなったこと対する揺り戻しが起こる。このときがちょうど昭和40年あたりの低成長期に重なってくる。そしてこの時期特徴的なのは、かつてのように「ユカ坐かイス坐か」という二元論が問われるのではなく、導入してしまったソファを背もたれにも「転用」させたりするという「ユカ坐もイス坐も」という混交姿勢が台頭してくるというところにある。

日本住宅には今に至るまで「靴を脱いで上がる」という習慣があり、おそらくそこにこの混交の理由の一端が帰せられるだろう。本書で面白いのはこうした何気なく触れている日本文化を実践的な動きと絡めながら、日本文化論へと強引に接続することなく語っていることである。勝手に残念がっている点は、雑誌媒体に登場する住宅内部とそこに存在する人(お母さん、家族)分析なんかは面白そうだったのに割とあっさりめだったこと。だれかつっこんで論じていないものだろうか。


本書ではあまり注目されていなかったのだが、上の「丹下健三の自邸と『低いユカ坐』」という資料で丹下の言として記されている「空間の重心」という考え方は興味深かった。いまだイス坐/ユカ坐が混交する日本住宅を考えていく際、どちらをメインにするかではなく、「空間の重心」をひとつのきっかけとしてみるのも面白いかもしれない。