開いて防ぐか閉じて守るか

現代のセキュリティは不安を増幅させることに貢献している。

過防備都市 (中公新書ラクレ)

過防備都市 (中公新書ラクレ)

なんだかんだ紹介しておきながらうかつにも読んでなかった。五十嵐さん六冊目の本。犯罪に対する予防策が複雑に入り乱れる都市を論じており、各章は都市、学校、住宅など場所別にどのような対策がなされているのかが例示されている。小見出しにも書いたが、大きな枠組みとしては「開いて防ぐか、閉じて守るか」を選択する必要になってくる。建築家はとくに。

日本がほんとうに危ないところになっているのかに関してはよくわからないが、人々の「体感不安」は日に日に増している。ニュースは「凶悪な犯罪」の報道で満載だし、CMには「セキュリティ」の文字が乱舞する。不安材料は人災のみならず天災も含まれるため、対策の目はより詳細により広範になりつつある。防犯とは起こりうる事件を想定することであるのだが、それは「隠れた都市の構造を再発見する」ことにほかならない。ここに彼が防犯をテーマに建築と都市との関係を論じる契機があるのだろう。

マンションの値段を下げることによる新旧入居者のいさかいが解消する、防犯対策グッズの売り上げが増大する、地域が活性化する、これらすべてがセキュリティの名の下に起こっていることである。五十嵐さんは明言していないが、防犯は「うまい道具」にもなるらしい。心構えは大事だけどほどほどにということか。余談だがこれだけ防犯グッズが普及している割に防犯ブザーがなっているところを一度しか見たことがない。しかも音の方向を向くと必死になって家族がその音を消そうと躍起になっていた。