ビルディング・タイプ

ビルディングタイプの解剖学

ビルディングタイプの解剖学

以前id:morohiro_sさんにオススメしていただいた五十嵐太郎さんと大川信行さんの本。「様式」からではなく、「施設=制度」つまり「インスティテューション」という観点から建築にアプローチしようという「ビルディング・タイプ」論である。下敷きとしてはニコラス・ペヴスナーによる「ビルディング・タイプの歴史」がある。
A History of Building Types (A. W. Mellon Lectures in the Fine Arts)

A History of Building Types (A. W. Mellon Lectures in the Fine Arts)

「史的モチーフの引用」が方法論として流行した「歴史主義」としてのポストモダニズムが、建築の「着せ替え人形」化をもたらしたという背景にあって、「様式論」のオルタナティヴとしての「ビルディング・タイプ」が提出されたというのはあまりにも分かり易すぎる図式だろうか。実際こうした建築史的動機付け以前に、ミシェル・フーコーによる『監獄の誕生』という歴史的著作の出版、ルイ・アルチュセールによる「国家のイデオロギー装置」という概念の提出によって、制度と権力との関連性に焦点が当たる必要性があっただろう。こうした一連の動機を助走期間のうちに持つことができた1979年という年にぺヴスナーの著書が出版されている。
言葉と物―人文科学の考古学

言葉と物―人文科学の考古学

以前住宅の問題に関してエントリを挙げ、山本理顕氏の空間帝国主義的建築観「空間の特定の配置にあわせて人間の生き方がつくられる」を引いたのだが、こうした考え方から「ビルディング・タイプ」という概念をうまく説明することができるだろう。つまり個々の建築が具現化する社会的な枠組みとしてのシステムから建築の類型化を図るという具合に。本書では「教育」「生産」「矯正」「収集」という四つの章から、それぞれ教会、学校(第一章)、倉庫、工場(第二章)、監獄、病院(第三章)、動物園、万博、パサージュ(第四章)が論ぜられている。

パサージュ論 (岩波現代文庫)

パサージュ論 (岩波現代文庫)

たくさんの図版が収録され、それらを見ているだけでも面白い本書のなかで最も読むべきはやはり最終節だろう。ぺヴスナーの著書が社会的考察を欠いていたこと、フーコーの監獄論が図式的で静的な構図にとどまっていたこと、等に対する批判として最終節「パサージュ」でベンヤミンの視座を提示する。「パサージュ」という語の持つ「移行」等の力動性、ならびに「ある地点とある地点とをむすびつける敷居」という性格などを挙げつつ、「ビルディング・タイプ」間を横断する視座を持とうと述べる。これはつまり、一望監視的空間である「監獄」が、それとはまるで異なった受容のされ方をする「病院」と構造的にきわめて近接しているといった、かつての「様式論」からは検証されがたい点を知るための試みとなるからである。ベンヤミン的なズレを伴った動的な視座によってさらにこの検証方法の可能性を広めていくこと、こうしたことを最終節から読み取ることができる。「様式論」のようにそれ自体が目的化することを避けるためにも、検証手段としての「ビルディング・タイプ」からのアプローチを心がけてみるべきだと思う。