コルビュジエの住宅のこと

ル・コルビュジエ建築の詩―12の住宅の空間構成

ル・コルビュジエ建築の詩―12の住宅の空間構成

「10+1web site」にて八束はじめさんが書評を書いているので詳しくはそちらを(「Book Review|最もル・コルビュジエを愛した建築家による美しいエッセイ」)
富永氏自らがコルビュジエの『全作品集』を手がかりにして、彼の12の住宅を図面に起こし、基準線を引き、模型をつくり、などなど手を動かすことで実感したあれこれを綴っていくというエッセイ。八束さんが太鼓判を押すように文章が綺麗だし、一章が一住宅に当てられているのだけど、各章の文量もさほど多くないので読みやすい。ちなみに内容をちょっと抜き出してみると下のような感じ(ラロッシュ=ジャンヌレ邸の章から)。

作品を分断して、バラバラにしてしまうような、「始める前から終わってるような」分析を「あとがき」で批判しているように、富永氏のプランや立面の分析は、コルビュジエの複雑な思考の網をグイと引き上げて、その魅力を垣間見させてくれるようなものになっているように思う。恥ずかしながらロウによるコルビュジエ分析を除いて彼に関するほぼ初めての著作になったのだけど、コルブ初学者にもってこいの書籍なんじゃないだろうか。

というのも、コルビュジエの『全作品集』に掲載された図面や写真には、あえて見せていない部分や欠落している箇所も少なくなく、これを富永氏の考え方とともに図面に起こしてくれたこと自体が重要な資料になっているからである。「考えシロ」が多く残されている感がある。

マニエリスムと近代建築―コーリン・ロウ建築論選集

マニエリスムと近代建築―コーリン・ロウ建築論選集

このロウの本では頻繁にコルブがでてくる。有名な「透明性」の章ではヴィラ・ガルシュが。
ル・コルビュジエの全住宅

ル・コルビュジエの全住宅

コルビュジエの住宅に関しては東大の安藤研によるこの本がある。まだ読んでませんが。
個人的な疑問としては「フリープラン」に関してのものが残る。提案した時期としてはミースよりもコルビュジエのほうが早かった(1914年:ドミノ)はずなのに、どちらかというと均質空間はミースの名前と一緒にかたられている気がする。これは僕の気のせいなのだろうか、それとも別の理由があるのだろうか。もしあるとしたら、コルビュジエのほうは人の動きに伴って生起するかたちの「複雑さ」の強調のために、あえてその対比項としての「均質さ」を提案したから、ということになるだろうか。均質空間とは容器としての箱、内部の複雑性はその中に容れられるものだと言えるだろうか。コルビュジエが必ずしも均質なプランを反映した白いボックスをそのまま提出していたわけではなく、その中で発生する「複雑さ」を意識していたこと、そしてそれが契機となり形式としての均質さにフィードバックされ、ボックスが解体されていく、こうしたプロセスを富永氏の本書に読んだのだけれど・・・。