建土築木

建築と土木のあいだの話


建設現場の仮囲いをキャンバスに見立て、デザインしてしまおうという試みの数々。名称こそ「仮」囲いとはいうものの、足の長い公共事業の現場なんかだと十何年もの長期にわたって単調な白い壁と対面し続けなければならない。そうした仮囲いの「仮設性」という矛盾にツルッと滑り込んだ(もちろんそんな生易しいものじゃないと思うけど)かのように見えて魅力的。ちなみに黒田潔氏のイラストがまぶしい上の「新宿サザンビートプロジェクト」はステュディオ・ハン・デザインの主導で行われている。

アップセッターズ・アーキテクツ岡部さんのインタヴュー。土木の領域でデザインの重要さを浸透させようとする韓さんの仕事は、上の「サザンビートプロジェクト」にとどまらず、「地下道の整備工事に伴う地上部の仮設歩道の覆工板のデザイン」から「東京湾アクアライン」にまで及びます。彼女の奮闘ぶりがうかがえ、それと同時にへんな対立のモデルが見て取れる2つのお話を引用。

「建築」の方からは、領域を広げてくれていると評価されたり、意見を求められたりすることも多々ありますが、「土木」の方からの働きかけはまずありません。こちらから話を持っていっても、「あなたはデザイナーでしょ?土木はエンジニアの世界だから」と言われてしまうくらいで。

通常インフラ事業というのはきちんと出来て当たり前と見なされるものなので、たとえどんなに良い志を持った計画のために工事をしていても、まず誉められたりすることはありません。それどころか、ちょっと何か起こるとクレームの嵐。工事現場は必要悪として理不尽な怒りの標的にされがちです。


でもこの現場では違った、感謝の言葉さえもらった、と彼女の話は続く。それがこの仮設歩道の披工板デザイン。「日本橋 Muromachi in progress」プロジェクト。人が歩いているところがそれです。

建土築木 1 構築物の風景

建土築木 1 構築物の風景

建築家出身で土木の教壇に立つ内藤廣氏のこの本でも「建築」と「土木」の対立が示される。上でも見たように、どうやらそこにはデザイナー対エンジニアという個人的には理解不能な溝があるとされるらしい。都市的なスケールで膨大な人を巻き込む土木の領域「だから」デザインなんか必要ない、という理解があるのならば単純に言ってもったいないし、そもそもデザインを完全に捨てきることなんてできるのだろうか。彼女の日本橋のプロジェクトはそのことについて示唆に富む。おそらくこうしたヘンな対立はこの2つの領域に限った話じゃないと思うのだけど、個人的にはむしろ、こうした「いがみ合い」のあいだでツルッとブリリアントな動きをしてくれる人がいるということ、そしてその動きを可能にする状況が存在していること、に着目していたい。