建築と価値のこと

QueryCruiseのフライヤーが出来上がっております。
京都市内某所で入手できますので、見つけられたときは10部くらいわしづかみにして知人友人にもお渡しいただけると嬉しいです。ちなみにKENCHIKUさんvoice of KYOTOさんにPRしていただいております。告知してやってもいいよ、という方いらっしゃいましたらなお嬉しいです。

で、今回はテーマについて。

  • なぜ価値がテーマか
  • なぜ建築から価値なのか

お寄せいただくご質問としてはおそらくこんなところに集約できるでしょうか。そして僕なりの返答を以下に(長いです)。
○なぜ建築から価値の話なのか
これまでにたびたび書いてきましたが、近年古い建物を残すのか残さないのかという議論が頻繁に起こっております。建築関係者にとっては「もちろん残す」「いや、むしろ残せ!」「これを壊すなんて頭おかしいんじゃないか?」「手を加えてでも残そう!」「頼むから残してくれ!」となりがちなケースでも、ふたを開けて見ると結構すんなり取り壊されてしまいます。たとえば「地震が来ると危ないから」とか「高層ビルにしたほうが所有者にとっては利益になるから」といった割とドライな理由によって。保存問題は比較的建築的なトピックですが、こうしたある一定の人にとっては有用なものでも他の人にとってはそれほどでもない、という構図は別に建築的でもなんでもない。そういうわけで、今回建築外からも専門家をお招きしたわけです。

○価値ってなんなんだろうか
単一の建物を保存するだけでも困難なのに、たとえば「すばらしい風景」を保存しようとすると状況はほぼ絶望的。これは単一の建物においても当てはまるでしょうが、以下のような理由が風景保存の難しさとして挙げられます。

  1. その風景がどうなったら保存されたことになり、どこまで手が加えられたら破壊されたことになるのか
  2. すばらしい、というのはどういう意味で、誰にとってすばらしいのか

おそらくどちらも明確な答えはないでしょう。だったら風景を保存する価値を示すなんて余計難しい。これがたとえばRPGゲームであれば話は簡単です。クリアするために不可欠な要素は「価値」をもつわけです。行く手をさえぎる岩場がどれだけ綺麗であれ、進行を阻むものならさっさと壊せばいい。これだけはっきりと価値観を規定するファクターがあれば物事はもうすこしシンプルですが、そもそもその「ファクター」ってそんなに明確に見えるものではありません。RPGでクリアすることに相当する「ある目的」なんて現実では存在しないからです。今からみんなでキリスト教徒になるとか、共産主義シンパになるとかしない限り。価値観を規定するファクターがないから結局個人の「いい/悪い」しかないし、ナンバーワンよりオンリーワンみたいなことになる(別物か)わけです。

○価値観とわかりやすさ
そんななかで無敵のわかりやすさを提供してくれるのが「マネー」です。価値という語がどうも経済的な面からのみ語られやすいのは、だれにとってもお金は重要な問題だし、お金は金額として数量化できるという点によって単純にわかりやすいからではないでしょうか。かりやざきナントカの家は僕にとって絶望的に無価値ですが、この壁紙が○○万円とか言われれば建築に興味ない人はおそらく「なんという価値!」となるわけです。「この景色は万葉集のなかでもその美しさが歌われているのだ」みたいなよくわかんない説明よりも「このシャンデリア400万」というテロップのほうがずっとわかりやすく価値を伝えてくれます。

○問いかけ
「マネー」以外で最近気になるファクターとしてはなんといっても「セキュリティ」と「環境」でしょう。大切なわが身や身内を守るため、かけがえのない地球と人類を守るため、こうした「無敵のわかりやすさ」は評価基準に据えられます。でもそれがために本当はなくすべきでないものまで諦めてしまってはいませんか。というかそもそも「価値」なんて言葉出すべきじゃないところで「価値」って言ってしまったりしていませんか。セキュリティのために導入した監視カメラがどの程度自由な都市生活のために一役買ってくれるかをしっかりと意識できているか。反論できないようなちょっと怪しい「正しさ」に胡坐をかいていないだろうか。そして価値観を規定するファクターを現在どのようにとらえたらいいんだろうか。と、こうした複雑な現状を考察するための、ちょっとしたヒントを得られたら個人的には幸いです。さてどうなるか。