辰野と曽禰、シュペーアと谷口

建築家のノンフィクションが面白かった話。

東京駅の建築家 辰野金吾伝

東京駅の建築家 辰野金吾伝

ひとりは東京駅を設計した建築家、そして日本で「初めて」の建築家、辰野金吾。もうひとりはナチス政権下に数多くの設計を手がけたヒトラーの覚えめでたい建築家アルベルトシュペーア。この二人。
ヒトラーの建築家

ヒトラーの建築家

東さんの本が面白かったのは、どちらの話においてもそれぞれもうヒトリずつ彼らを客観視する視点が用意されていたこと。前者では曽禰達蔵が、後者ではおおと思われるかもしれないが、谷口吉郎が選ばれている。

ひとことで言えば、彼らは主人公をアコガレのまなざしで見る。事実関係はどうあれ、そこでの役割はライバルだ。彼らは主人公を理解しようとし、近づき、惹かれ、若干嫉妬する。彼らの目に映る主人公と、主人公そのものとの齟齬にこそこれらの話を推進していく動力がある。と思う。

なぜなら、ここでの賭け金こそが主人公であり、賭けられているものは時代だからだ。片や西欧化がシンポだと信じ、その信念が時代の流れと共に疑義に呈されていく日本。片やみんなで望み、望んだものの実現とその帰結とによってまたみんなが悩まされた独裁体制下のドイツ。状況の中で揺らぎ、内面もまたそうである建築家と、そして彼をまなざす建築家との、すれ違う像越しに彼らの時代がなまなましく浮かんでくるようだった。

というわけで、この二冊では個別のプロジェクトにどうやって挑んだのかはあまり触れられていない。もしそれに不満であるならば、平松剛さんによるノンフィクションがおすすめです。

光の教会―安藤忠雄の現場

光の教会―安藤忠雄の現場

これとか、
磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

これとか。どちらも抜群のお仕事。