スクラップ&ビルド

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)


住宅が売れないのは、「不景気」だからではなく、「ほしい人は大体持っちゃってる」からである。かつてものすごく売れていたのは、「そのときちょうどほしがっていた人口がものすごくたくさんいた」からである。「消費する人口(=生産年齢人口:15〜64歳)」が減っている(だから「少子高齢化」という言い方は的を射ていない)現在、売れていないのは「ほしい人が減っているから」なのであって、「不景気だから」ではない。だから「景気がよくなれば住宅が売れる」というわけでもない。ものすごく売れていたとき確かに景気は良かったが、それは「景気がよかったから売れた」わけではなく、「売れたから景気が良かった」のである。でもこれを間違えて「景気がいいと住宅が売れる」としてしまったから、売り手は必死になって「次の好景気」を待つ。しかし悲しいかな「次の好景気」は来るかもしれないが、そのときに「売れる」保証はない。なぜならそれは局所的な人口増加の問題だからである。

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以上が冒頭の本(の一部。でもこの「経済は人口の波で動くのだ」という視点は全体にも貫かれています)を勝手にまとめたことである。以下唐突ですが、スクラップ&ビルドの話します。スクラップ&ビルドはあまりいいことだとは思いませんが、スクラップ&ビルドをテコにしていろいろと考えてみました。


ところで、スクラップ&ビルドはよくないとされている
以前僕も森川氏の論考に当たりながら「例えばゴミの問題からそれはダメだ」ということをひとつ書いた。では、「なぜスクラップ&ビルドは起こるのか?」となると、その理由は大抵「建物の価値が25年くらいするとゼロになるから」とされている。でも、例えばココでも書いたが、そのように「物理的な」(まじりっけない物理的問題だとは言えないが)耐用年数の他に「社会的な」耐用年数の問題もある。15年くらいすれば子供部屋は使いづらくなる、だとか。こうした物理的&社会的耐用性によってスクラップ&ビルドの土壌は生まれる。どういう因果関係にあるかはわからないけど、これは「一定のスパンで買い替えてもらわないと住宅が売れない」という売り手の現実と割と相性がいい。この辺りを無視して「スクラップ&ビルドは短いスパンで建てられたり壊されたりすることだ」と考え、その改善策を出すとなると「では100年もつ住宅を」という話になる。


では、それでスクラップ&ビルドは止まるだろうか?
住宅産業は自分の首を自分で占めるだろうか? あるいは「このままだとまずいから方向を見直そう。長く持つ家を建てて改修して長く使っていく方針を!」などと言うのだろうか。後者は一番ハッピーなことかもしれない。でも、ここでスクラップ&ビルドが「なんで悪いのか?」を、もう少し考えてみてもいいかもしれない。「スクラップされちゃ困る建物があるから」ならば、そういう建物はスクラップをやめればいい(今後風景や住宅に「ヴィンテージ」という価値を定着させない限り日本の建物に対外的な魅力はなくなるだろう。でも「長く使われている家」がすべからく「ヴィンテージ」にはならないと思う)し、スクラップ用の家はスクラップしたらいい。それをゾーニングして「スクラップ用」は「ヴィンテージ」とは別物だ、とはっきり言ってしまうとか。


それでも問題となる
「ゴミ問題」に関しては、その「スクラップ&ビルド」の社会的コストを極端に低くする。その上で「社会的耐用年数」への対応度を極端に高くする。そして「スクラップ&ビルドのスパンをもっとずっと短く」したら、冒頭でちょっと問題になった「住宅が売れるポイント」も増えるのでは? 模様替えするくらいの感覚で家をつくりなおせば、「あるからいらない」という理由もなくなる。つまり、高級車くらいの値段で家が買えて、5年か10年くらいで下取り、リサイクル、みたいなフローが「スクラップ&(リサイクル&)ビルド」の名の下に起こってもいいんじゃないか? 全部紙と木材でつくって、釘も使わない、とか。パネル工法ってそういう「簡易さ」とすごく相性がいいように思うんだけど、にもかかわらずなぜそのような住宅に高額な値段を払わないといけないのだろう?


ややこしくまとめます
「スクラップ&ビルド」への「反対」として「価格相応に住宅を長く持たせる」も確かにひとつのアプローチだけど、でもそれで全部解決しやしない。「スクラップ&ビルドは産業構造と相性がよさそうだ」と考えるならば、「産業構造を変えろ」というのもひとつの意見だけど、「住宅を(例えば)車と同じくらいの存在にしてみる」という提案があってもいいかもしれない。そのときに「いやいや、スクラップ&ビルドの反復は社会的コストが高いからダメなのだよ」が問題なのだとすれば「住宅の社会的コストをなるべく引き下げる」という提案があるといいだろう。個人的には、その社会的コストの引き下げには、現状使われているパネル工法的なものが相性よさそうなんだけど、どうなのだろうか。


追記
これは「スクラップ&ビルドのスパンを極端に短くしてみよう」という提案があってもいいのではないか、という観点から書いてみました。スクラップ&ビルドの際に極端にフロア数の多い超高層ビルが建てられ続けるとどうなるだろうか、ということを書いてみたこともありました