語りつないでいくためのリサーチ
以前も紹介した、90年代バブル期の計画である。近年とみに「建築家があまり大きいこと言わなくなった」とよくぼやかれるが、「大きいこと」自体は常に語られていた。90年代、大手ゼネコンはこぞって1000メートル規模のビルを計画していた。最近では宇宙建築の話をはじめている人もいる(ちょっと問題も起こっているが)。なので、そのぼやきは一体何に対してぼやいているのかが個人的にはあまりよくわからない。
千メートルビルを建てる―超々高層のハードとソフト (講談社選書メチエ)
- 作者: 尾島俊雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/11
- メディア: 単行本
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これはバブル風を全快に吹かせた「大きな」計画ではあるが、結構入念なリサーチに基づいている*1。表層的なレベルを見れば、冗談に見えるかもしれない。なぜなら「千メートルビル」はあまりにも極端だからである。そして、このリサーチが「千メートルビルを建てるためのロジック」としかとらえられなかったら、この計画自体に価値はない。ただ、この計画は「現在都市が抱えている問題の解決」のためになされたものでもある。具体的に「都市の過密問題」や「都市の職住問題」や「都市の環境問題」への解決案として「千メートルビルを建てる」という方法がある、と尾島さんは言っている。
前回、リサーチには「建築のためのリサーチ」という側面だけではなく「建築を通したリサーチ」という側面もある、と言った。このときに示したかったことは、こういうことだ。「千メートルビル」という解決案までの筋道のなかに、今まで見えていなかった現実の断面を示してくれるものもあるんじゃないか。だから私たちに必要なのは、「それは非現実だ」とちゃぶ台をひっくり返すことよりも、「そういう言い方もあるんだ、でも私はこう思う」と、アイデアのいいところをつないでいくことである。昔は「大きいこと」はそれこそちゃぶ台をひっくり返して語られていた。でも現在「大きいこと」は、語りつないでいく方がよいのではないかと思っている。リサーチに重きを置くのは、そのためである。