素材と造形の歴史

素材と造形の歴史 (SD選書 9)

素材と造形の歴史 (SD選書 9)

山本理顕氏の師匠さんであり、66年の本書出版3年後にあたる69年に稲葉武司氏とともに『巨匠ミースの遺産』を書いている。ミースの方法論を中立的に批判するという論は当時世界的にも珍しかっただろうという評もあるくらいだが、その思想的背景が伺えるような一冊で面白い。当の思想的背景とは何かだが、これを一言で言うのならば社会的ニーズ(機能)と技術とが相互に与える影響によって建築は発展していく、ということになると思う。

世界中がミースの空間を均質だの普遍だなんだと騒いでいる最中、山本氏は彼の空間構成の仕方は非普遍的ではないかと注意をうながす。このロジックも本書をあわせて読むと分かりやすい。社会的機能と技術とのインタラクションとは各々の影響をフィードバックしながら進んでいく動的なものである、ところがミースは当時の社会的機能や技術をむしろ既定のものとして静的にとらえているではないか、と。こう考えると山本氏は、当時「均質空間」「機能主義」とともに語られていたミースの空間に内在する、彼のフェティシズムともいえる何かに気づいていたのかもしれない。

山本氏が機能=社会的ニーズとしてとらえているところ、あと彼のミース批判の妥当性の範囲に関してはちょっと気になるけど。