森博嗣を通じてSFRCへ

限りなく自伝に近い日常ミステリ小説

工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)

工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)

コンクリートの研究を続けながら小説を書いている著者による、後にミステリ小説家としてデビューすることになる工学部・水柿助教授の日常を描いた小説。「日常ミステリ小説」とは言うものの、著者が本文中で「いくぞいくぞ」と仄めかすのみで「ミステリ」でもなく「小説」でもなく、なんとなく日常の雑記が引き算の結果残ったという感じ。そういう意味では研究者による学校&学会&家庭エッセイだといえる。個人的には建築系素材の基礎研究者、それもコンクリートの、という水柿助教授に対して「キャラ萌え」(使い方あってるのか?)している感もある。

水柿助教授の研究内容にちょっと踏み込んでみたいので唐突にコンクリートのはなしにはいる。コンクリートは、セメント+水+粗骨材(砂利)+細骨材(砂)(+混和剤)と定式化できる。セメント+水で「セメントペースト」。これに細骨材、要するに砂を混ぜると「モルタル」。例えばレンガの目地の部分がそれで、接着剤として使われる。で、「モルタル」に砂利を入れると「コンクリート」になる。各材料のバランスによって強度が変化するのだが、強くすると粘性ばっかり上がって型枠にうまく流れず、作業効率ばかりかさむ結果になる。

学校の建物をはじめ、コンクリートの中に鉄筋を入れて補強してある「鉄筋コンクリート」は、コンクリートと鉄との膨張率の一致によって可能になるのだが、奇しくも圧縮に強く引張に弱いコンクリートと、圧縮に弱く引張に強い鉄とが相補的な関係にある。しかもコンクリートは基本的にアルカリ性なので中の鉄筋は原理的には錆びないというなんとも奇跡的なマリアージュを遂げているわけだ。ただ現実的には年月がたつにつれコンクリートが酸化してじわじわと中の鉄筋を錆びさせたり、ひび割れした箇所から水が浸入して中の鉄筋を錆びさせたりする。

そして水柿助教授の研究はここにかかわってくる。中の鉄筋を鋼繊維に変え、しかも鉄筋をあらかじめ打ったところにコンクリートを流すのではなく、はじめから鋼繊維を流体コンクリートに混ぜるというのがキモらしい。これをSFRC(鋼繊維補強コンクリート)という。ちなみにすでに実用化しております。構造性能・耐久性・現場製作効率すべてがアップするらしい。すごい。

アンチ・ハウス

アンチ・ハウス

ちなみに森氏、自らが自宅をつくる顛末を書き記した本もある。前々からタイトルが気になっていたので、これを機に読んでみようかなと思う。