スウォッチ本社のこと

銀座の中央通りにスウォッチの本社ビル「ニコラス・G・ハイエック・センター」ができた。有楽町方面へ歩いていくと緑化された北側の壁面が目を引くので場所に不案内でも難なく分かる。設計はこの間お台場から撤収されたノマディック美術館が記憶に新しい坂茂。一筋縄ではいかない坂氏らしい(?)建物なのだが、ウェブサイトKen-Plazは写真も多めで取り上げているし(一般には立ち入れない部分も見えます)、「日経アーキテクチャー」の今月号では構造の面をはじめさらに詳細を紹介している。

地上階、低層フロア、高層フロアの三層構造になったこの建物の見所はエレベーター。地上階に7つのブランドのショールームを配置しているのだが、ショールーム自体がガラス張りのエレベーターとなっている。このショールームは内部に入ることができ、そのまま低層部各階の各ブランド本体に直通する。上層階には本社のオフィス機能を配しているようだ。

低層フロアのエッジが半円に欠き取られているのだが、上の円柱エレベーターがここにうまく収まるようになっている。通路をあらかじめ作っておいて上からロープで吊るすという一般的なエレベーター観を覆すからくりである。ただ実はすでに金沢21世紀美術館で見ていたのでこれ自体にはそれほど驚かなかった。油圧式ナントカで下から箱を持ち上げるという仕組みらしい。間近で動くと結構インパクトがある。

ただ、銀座に新しい歩道を作りたいという旨の発言を坂氏自らなしているように、見所がこのエレベーターで終わってしまうべきではないと思う。つまりショーケースを本体から切り離し、それを地上階に配置することでアトリウムが生み出されているのだが、これを可能にしたのがこのエレベーターであったというわけだ。ここは手段と目的とをしっかり意識して見たいところ。噂によると地上階のアトリウム空間は通り抜けできるらしいのだけど、横幅の狭い土地に7機のエレベーター(ショーケース)が配置されているということもあり、残念ながらその奥行きがイマイチ強調されなかった感がある(要するに見落とした)。実際には通り抜けできないかもしれない。それでも表参道や銀座といったような沿道型で表層の被覆方法が強調されがちなエリアにおいて、「奥行き」を意識した設計に新しい流れを感じた物件である。