バルセロナ・パヴィリオンのインスタレーションのこと

バルセロナ・パヴィリオンでSANAAインスタレーションが見える。かなり前のエントリをほぼミースやバルセロナ・パヴィリオンに費やしてきた身としては、旧友に会ったような感じで嬉しくも気恥ずかしいおもいではあるが、とにかく今バルセロナ・パヴィリオンに行けばSANAAインスタレーションが見える。

SANAAとミース

一言で言えば、パヴィリオンの内部に曲面アクリルの壁面を挿し込んだ、ということになる。上の写真の下に示されているのがその壁面。パヴィリオン内部の中心にあって一番印象的なオニキスの大理石壁面(あとは床面のトラヴァーティンとか外部のグリーンマーブルとかがある)をぐるりと囲んでいることになる。ただここでちょっと振り返ってみると、このバルセロナ・パヴィリオンが「近代建築の傑作」となった理由としては、8本の柱が屋根を支え、壁がその荷重から自由になったことを当時一番明快に示したというところにあるだろう。この辺はライトのほうが先、とかコルブのドミノが先、という反論はそれぞれあると思うのだけど、実物として最もわかりやすい形で具現化したのはミースだったと思う。そういういきさつを考えると、SANAAがパンフに掲載した図面がしっかりと柱と壁を残していることがわかるし、それがために、なぜか八本の柱を六本にして本来あるべきガラス壁(右側にあるはず。つまり右端の柱二本&ガラス壁面等が消えてる)を消しているのが気になる。ちょっとだけだけど。
実際建築界を見渡してみると、ミースの系譜を正面から引き受けた建築家としてSANAA伊東豊雄レム・コールハースなんかが挙げられる。そのなかでもSANAAはまさにミースの延長線をかなり長く引き伸ばしたところにいると言えるのではないか。突き抜けて別の強度を持ちえているかもしれないけど、とシンプルに考えればミース財団がSANAAにここでインスタレーションを任せた理由がうかがえる。


バルセロナ・パヴィリオンのうちがわ

パヴィリオンが傑作になったひとつの理由に関しては先に少し触れたけれど、でもパヴィリオンの魅力はそんな原理を離れたところにもある。素材性だ。パヴィリオンでは、複数種の大理石や複数色のガラスを壁面に、赤のヴェルヴェットをカーテンに、そしてクロムを柱にと、多種のテクスチャーがふんだんに使用されている。非透明な大理石壁面によって視界を絞り、透明のガラス壁面によってその向こうを意識させると同時に反射するそれらの表面によって内部の豊穣なテクスチャーが反復しているようにも見える。ガラスに絞って言えば「無きもの」として想定されながらもその現象はある、という複雑な役回りを担わされているのではないだろうか。「内外空間の相互貫入」は先の原理から敷衍されたパヴィリオンの一評価点であるが、ミースの意識というか重心は多分かなり内側にあったのではないかと思う。「外側」は存在しないのである。パヴィリオンは空間構成の面でも素材の面でもかなりオブセッショナルな空間だと言えるだろう。


単一素材の状態の差異

だからSANAAのアクリル曲面を見たときに、ちょっとニクいなと思った。曲率によって反射の仕方を少しずつ変える単一のテクスチャーは、素材感を欠きながらも、まわりの風景をその面に写し取りながらそこにある。もとあったミースのオブセッショナルな構成の中でその現象のみがそこにあることを理想とされたガラス的なるもの、に動線をつくらせているのだ。ミースが素材間の「テクスチャー」の差異に重きを置いたように見えるのに対し、SANAAは単一の素材がつくる「状態」の差異を見せた、と言うことができるのではないだろうか。

ちなみに一番初めにこれを紹介してくれたDezeenに載っていた写真が以下の3枚。とにかくよくわからなかった。


この写真だとちょっとわからないので、クローズアップ。

こ、これでもちょっとわかりづらい。斜め上から。

ダメだ、わからん。

内部写真とパンフレットはFlickrに挙がってます。2枚ほどお借りしました。