おじさんのプロ

八月四日、
ダイビルがそろそろ取り壊される。地下一階に入るレストランも残すことろあと18日で閉店。コックさんが忙しくキッチンを立ち回り、給仕さんがクルクルと店内を抜けていく。あまねく調理道具、調理される素材、什器、ワインボトル、皿、カトラリがおさまるべきところにおさまっている。ドライエリアに面して開けられた窓から光が差し込んでいる。窓の向こうはコンクリートの壁。天井が高い。ハムにチーズをはさませロール状にしたところを揚げたもの、その下敷きになっているおいしいキャベツの煮たものを食べながら、給仕さんが丁寧に入れてくれたビール、泡のきめが細かいビールをグイッとやる。昼間からビール。満足。座席はすべてうまっている。調理場ではたっぷりと用意された油の中に衣がつけられたロール状のハムが次々と投入されている。中はチーズ。また別のコンロでは魚と貝とがワインで煮込まれている。グリドルにも魚。コック長がロール状のハムの揚げ加減を針のようなもので確かめている。お弟子さんが恰幅のいい躯体を揺らしながら皿に料理を盛り付けている。テーブルにはおいしいキャベツを煮たおおきな鍋が置かれている。ベテランさんが手際よく皿を洗う。食後のシャーベットはうすいグリーンの色。満員の客席では仕事を中抜けしたお昼どきの人々がガヤガヤと話をしている。給仕さんがその間を抜けて料理を運ぶ。入り口では子供づれの家族が席が空くのを待っている。あと18日後にこの景色はなくなる。ダイビルが取り壊されるからだ。

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八月五日、
表参道にある「男子校カフェ」のモデルはドイツ。Edelsteinという。エーデルシュタインと読む。意味は調べない。夜、福島から京都にやってきた佐藤さんの訪問。今年三月の予告通り。おお、ひさしぶり。ご無沙汰してます、と乾杯。O先生とMさんと同席させてもらう。ウィスキー4杯。ジャーナリズムの話と批評の話。

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八月六日、
LVHRDというアメリカのイベント企画会社が「Arch DL」という建築プロジェクト提案バトルを企画しているとのこと。

独占!独占!独占してやるぜ!的なアレ、のパロディー
現在第5弾。建築会社や建築事務所から二社を招き、舞台にあげ、お題を出して30分考えさせ、その後プレゼンさせて勝敗を決める。例えば第5回のテーマは「豊かさと不景気」、当日まで伏せられたお題は「金融犯罪者を月に飛ばすための輸送機のデザイン」、第3回ではプレゼン用模型をチーズで作れという設定。チケットが完売するほどの人気だそう。内実が分かりづらい建築コンペをリアルガチバトルにしてしまう開き直りっぷりというかなんというかが潔い。

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八月六日、
朝書き物。夕方佐藤さんにインタビューされる。出自のこと、考えていたこと、今やっていること、今考えていること。大体一時間くらいでもういいかな、と思いはじめると「大体一時間くらいがちょうどいい」と佐藤さん。でもヘマをしてしまった。バルセロナパビリオンのことを時間関係(資料の出版時期とか)が不確定なままでしゃべってしまった。でも佐藤さんは文字おこししたものはあとから手を加えない!と言っていたので何も言わない。そもそも文字起こしされるかも分からないし。その後にYさんのインタビューが控えていたものの、まだ到着まで時間があったしおなかが減ってきたので一緒にご飯を食べに行く。名前を先に決めるのね、どういうことなのかがパッと分かる名前を。そしたらみんなその名前を呼んでくれるから。建築あそび、わかりやすいでしょ。と佐藤さん。帰宅。結局 Yさんのインタビューは4時間半続いた。ウイスキー水割り5杯。最中はカメラマン。佐藤さんは「建築界の親戚のおじさん」となづけられていた。おじさんのプロ。新しい仕事。