楽座花はな店&Lits六甲道

十月九日、
立命館大学K先生の研究室へ。K先生の花街研究が興味深いのは、花街という現在から見れば特殊な空間性が、その実ことに局所的なものではなく、近代日本都市の成立における重要な動因になっていた、という視点に裏付けられているということだ。遊郭に比して地図上には記されることのなかった「見えない」花街のあり方を、規制等々の諸問題にもまれながらひっそりとその役目を終えていくそれを、文学的地理的な隆起の中からなぞりなおしている。ということで、必ずしも花街に限定するわけではないが、そういったお話を、実際に街をあるきながら話していただこうと思っている。

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十月九日、
ネットカフェ。桂の楽座花はな店へ。前回行ったシエルネットから程近い、程近いどころか、あるいても五分はかからない場所にある。もっとはなればなれにあればいいのにと思うが、これに関しては出店者の意向というものなので仕方がない。でもほんとうにはなればなれにあればいいのにと思う。一階はゲームショップとカラオケボックス。それからリラックスルームという、特に機能はなく、ただ数人が集まってべらべらと喋ったり、喋らなかったり、ゲームしたり、とかくリラックスするルームというものがある。空間レンタル業もここに極まれりという趣だ。そして二階がネットカフェ。ここの第一印象は天井が高い。個室の高さが1700あるのに、それでもなお低く感じられるのは、その上の気積がとても大きいからだろう。本棚も割りと高くまであるのに、それでもなおゆとりがあるように感じられるのは、よいことだと思う。類似例として、本棚を階段室に置くというものもあるが、あれはどうも階段の幅に比してしまうので、どれだけ天井との間に差があっても窮屈に感じられてしまう。

個室の大きさは980×1680、なんとも奥ゆかしい。これは狭いとは違い、広くもないが、狭くもなく、ちょうどいい具合ということだ。ネットカフェの価値は個室の大きさがどれだけ広いかによって定められるものではないと思っており、それは総体的な空間に対して個室の大きさが喧嘩していないことも重要な要素になると考えている。そういう意味で奥ゆかしい大きさというのはよい具合なのである。このように、よいポイントを述べたが、もちろん悪いところもあり、それはどこかと言うと、ペアシート1600×1700の、フラットシートのマットが豹柄だということだ。それは個人的な嗜好の問題なので、問題ではないといえば問題ではないが、豹の柄、正しくは豹の柄の柄が突然現れるとちょっとなあと思う。なおここにはマッサージ席がなく、マッサージチェアがむき出しのまま置かれている。このシステムは意外とよいかもしれない。カバチタレ!を読む。

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十月十日、
スウェーデンから一時帰国中の坂根くんを招いてopenlab.07。彼はアーティスト。海外生活も人生の半分以上、長いこと寒いところにいたので、個人的には割と肌寒いかなと思うところで「ちょっとあついですね」と言う。蚊に刺されると免疫があまりできていないようですごく腫れるのだそうだ。彼の作品には見えないものを、見えていないものを、見ているつもりになっているようなものを、見せようとするようなところがあり、そこに興味を覚える。日本とスウェーデンとの所作の差のようなものに根ざしているのかもしれない。観者をどのように想定しているか、という質問に、うーん、と。またゆっくり聞いてみよう。その後せせりで夕食。せせりはテント屋台。おでんと焼き鳥。

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十月十一日、
友人の結婚式で神戸。三宮、元町から海のほうへと歩く。いつも相変わらず狭いビルの二階にあるちんき堂にふらっと寄り、誰が買うのかよくわからないラインナップを眺め、出たあとは、近くのエヴィアンに移り、そこでは毎度ながらマスターがサイフォンを次々とこしらえ、おばちゃんは相変わらず愛想がなく、休みというので人は多く、いつもどおり50年とちょっと経た古い空間は中にいる人々によってなにやらバタバタしている。なお結婚式の会場(二次会)は明石大橋のふもとにあって、眺めがよく、そればかりか、よい会だった。

こうまでして屋根を見せたかったのか

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十月十一日、
神戸のネットカフェ。正しくは六甲道のネットカフェLitsというところへ。Litsは今年の七月にできたところで新しく、ところどころがピカピカと輝いていて目が痛い。エレベータから降りたはなのエントランスがもっともピカピカしており、エントランスは会計をするところでもあるので、長時間パックを終えて帰っていくときにその輝度はとりわけ目にやさしくない。綺麗なネットカフェはよいが、ピカピカしたネットカフェにあまり益はないように思う。汚れやすいし。なおエントランス以降は比較的まったりとした輝度が続き、上階に至ってやや暗いにまで至る。マッサージチェアがむき出しのまま置かれており、誰でも利用可能となっている、ところが、前回の楽座花はな店と同じ。
友人と二人でペアシートなるものに初挑戦した。このペアシートの面積1800×2100というのは割りとよくできており、カップルであればお互いへの近接がより容易に促され、そうではない今回のような男性二人の場合であっても、お互いがお互いに気を遣わずともすむくらいゆったりとしたスペース確保が可能となっている。ちなみにシングル席は1200×2000。この差600ミリは想像するより大きい。チェーン展開を考えるネットカフェにとって個室を作る壁面のモジュールは重要だ。各店舗で基本単位が異なっていることは言うまでもなく、そのパネルの大小のヴァリエーションも気になるところ。カバチタレ!を読む。

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十月十二日、
松田達さんがradlabに。RADとは、何をやっているか、今やろうとしていること、などをお話する。前二者に関して一言で言えば「リサーチ」をどう考えているのか。後者に関して一言で言えば「告知」だ。告知がかなり多くなってしまった。リサーチに関しては、リサーチというとあまりにも対象が広く、それを謳うことに益も意味もまったくないわけではあるが、個人的には、ある事象を「わかる」ためではなく、それを「わからない」と言うために行う助走のようなものがあるといいなと思っており、それを表現するためにリサーチという言葉を使っていきたいと考えている。そんなことは言っていないが、そういうことを思っている。たぶんそのうちまた変わるだろう。

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十月十三日、
hanareradの庭いじりプロジェクト。田中美穂植物店の田中美穂さんにお越しいただき、だいたい十名越くらいの人数で庭をいじった。基本的には日陰なので田中美穂さんには難しい時間を過ごさせることとなってしまったものの、土に触れていると落ち着くし、なにより大人数でごちゃごちゃしているのは楽しいので、いい時間になったと思う。僕は何をしていたかと言うと、風呂を掃除していた。カビキラーを撒き散らし、時間をおき、水で汚れを流し、その上でさらにゴシゴシこすったり、こすったところを拭いたりしていた。うっかりしていたので、マスクをせずに作業を進めてしまい、大量のカビキラーが噴霧した状態のものをおおく吸い込んでしまったような気がする。頭がクラクラした。その後おでん。おでんの後は、今度廣瀬純さんがレクチャーのときにとりあげる予定の山中貞雄、丹下作善余話、百万両の壷を見る。言いだしっぺの人はあろうことか寝ていた。

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十月十四日、
Nさんの家へ。GRLKYOTOライブラリーのために本を物色させてもらう。「eat」というハイブロウな食の雑誌を見せていただき、それはどうやら十巻ほど出て廃刊になってしまったようだが、つくりは丁寧で、ヴィジュアルもよく、英語併記になっているので編集の意気込みにあふれているような雑誌だった。食関連の雑誌を他にもいくつか見せてもらう。レシピ集のない食雑誌。