新しい西部、古い想像力

仮想空間「詐欺」のニュース*1

埼玉県警が、インターネット上の仮想空間をめぐる連鎖販売取引マルチ商法)で虚偽の説明をし会員を募った疑いがあるとして、現在3D仮想空間「X-I World」(旧エクシングワールド)を運営する株式会社ビズインターナショナルと空間のシステム開発を持ち掛けたとされるフレパー・ネットワークス株式会社らを家宅捜索した(SECOND TIMES:「「X-I World」(旧エクシングワールド)運営のビズインターナショナルら、マルチ商法の疑いで家宅捜索」より)。

ビズインターナショナルフレパー・ネットワークス株式会社が「エクシングワールド」の構想・運営を行っており、「ら」の側にある「IDR」が開発を担当した、という構図だろうか。ただフレパーネットワークスはこの事件以後「phantom」という仮想空間を公開しているので、同社も開発に携わっているかもしれない。

被害総額は100億。仮想空間内での土地取引で5億、残りの分は2万数千人が仮想空間内で先住民(プレメンバー)になるためのお金。約400000万×2万数千。計100億。単純な疑問は「なんでこれだけ巨額のお金が?」ということ。これをマルチ商法だから、というひとことで納得してしまうかもしれないけど、こういう意見がある。

元幹部は「ビズ社が仮想空間の前に手掛けていたマルチは、人を集められなかった。だから売れる商材を探していた」と話す。(毎日jp:「仮想空間マルチ商法:「マルチ」人脈で拡大 「売れる」ソフト、社長ら後押し」より)

人が集められないマルチ/集められるマルチ、というものがあるらしい。ゆえにそれを決める欲望の力学がある。例えば土地取引で5億とあったが、おそらく一区画数万単位のとこから5億集めるには数万単位の購入が必要だったはず。ということはほぼ全員が買っていたということか?となれば、仮想空間での不動産業には人を集めるだけのパワーがあったということだ。現金への換金もできるとされていた、この仮想空間でのアーキテクチャがポイントかもしれない。紹介映像を見てみると、こういう説明がある。

  1. あまねく会員は自らのアバターの居住場所を確保しなければならない
  2. 会員は出展者から居住地をレンタルする
  3. 出展者は地主から土地をレンタルする
  4. プレメンバーは地主になれる
  5. しかもプレメンバーはこれから整備するインフラの協同設立者(?)になれる
  6. ゆえにプレメンバーはインフラの賃料収入等が分配される

ここから*2読み取れるのは、プレメンバーは楽して金儲けできるよ、と説明しやすい設定がされていたのではということ。地主になれる、自分が開発しなくても出展者ががんばってくれる、しかもあまねくアバターがこれからこの世界に住居を求めてくる。繁盛した際はインフラの収入も入ってくる。この時まだ数万人しかいないというユーザー(プレメンバー)の少数性はプラスの効果をもたらしただろうし、今見れば閑散としているだけの「誰もいない街」は、その少数にとって輝かしい「西部」のイメージをもたらしたはずだ。

たぶんこうした「地主的」欲望のモデルがある限り、仮想空間から土地はなくならないだろう。ここには先んじる者が勝ちというロジックがある。リアルライフでは転がすに足る手つかずの敷地などどこにもない、ましてや手に入れるだけの資金もない。でもあそこにはある、値段も割と手頃。その限りでここにはバブルがあったわけじゃなく、「バブル」というゴールドにラッシュする構図があったのだ、と思うのだ。

*1:ちなみに仮想空間での不動産業それ自体は悪いことじゃない、はず。

*2:他にも細かい工夫は結構ある。例えば日本国内に限る、とかセカンドライフのようにリアルなアバターをやめる、とか、あと不動産以外にも商品売買もできる、だとか。仮想空間なので理論的には無限の広がりが可能だが、にもかかわらず日本と言うわざわざ世界でも狭い部類に入る土地を厳密に再現しようとしたことは興味深いと思う。きっとこれはユーザーの想像力の問題であり、彼らの欲望を囲い込むためのアーキテクチャなのだ。