買い足してもらえばいいさ

渡辺豊和がRIA時代の師山口文象と朋友毛綱モン太(毅曠)のことを綴っている。エッセー調の昔語りと言ってしまえば簡単だけど、個々のエピソードを動かしている動力源となる問題意識を、僕たちはちゃんと引き受けているのかなと考えてしまうことも多い。ゴテゴテした「悪趣味」な建物を全部ポストモダン!バブルの名残!だなんて言いながら、この本をただの証言集にしてしまってはあまりにももったいない。

とまれ、この本では山口の徹底したモダニストっぷりや毛綱のラディカルな変人っぷりが伝わってくるエピソードが多くてわくわくするのだけど、とりわけこの話が魅力的だ。毛綱が「釧路市立博物館」を設計した時のエピソード。彼の計画案が敷地より大きくなってしまい、どうするのだという渡辺の問いに「土地を買い足してもらえばいいさ」と答えるというもの。公共のプロジェクトでだ。

それではこの計画が挫折したのか。そうではなかった。私などの凡人には想像もつかない解決策をモンちゃんは考え出した。なんと建物計画は一切変更せずに与えられた敷地境界線のところですぱっと切断してしまった。要するに最初は理想型として計画しそれを条件に合せて切断し残った部分を必要施設として使用する計画だった。

その次のエピソードで渡辺の口から、はかったように磯崎と毛綱の邂逅が語られる。毛綱の場合、「すぱっと切断」とはいえ渡辺曰く「どこをどう切ったのか簡単にはわからな」いようにそうするのであり、造形的に切断面を見せるようなことはしなかった。