公共事業

脅威の調査力と強力な論理構成で読む者をグイグイ反開発路線へと巻き込んでいく五十嵐敬喜・小川明雄タッグによる一冊。公共事業にはいかに無駄がおおく、それがどのような状況を引き起こし、にもかかわらずそれが止まらないのはなぜかをグルーヴィに論じきっている。1997年の本。

公共事業をどうするか (岩波新書)

公共事業をどうするか (岩波新書)

お二人の書籍には新書が多いので手に取りやすく、これはつまり届けようとする読者像が毎回明確になっていることの現れであって、そこにブレがあまりないという点でもまずおすすめしたい。おすすめするまでもなく読んでいるとは思うが。


ここでは、公共事業に歯止めが利かない原因のひとつとして国からの補助金を挙げている。国からの補助金が公共事業をズルズルと持続させているんだ、という論は多いものの、ここで指摘されているのは、補助金はその事業が中止になると「返さないといけない」ということだ。


補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律

第十八条  各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。


ちょっとビックリしたのが、事業が中止になり補助金を返すときに、「加算金」を上乗せしないといけないということだ。つまり、例えばダムをつくるので補助金下さいと言っていた地方自治体は、もらっちゃった限り、つくらないと余分なお金を上乗せしないといけないということだ。その額、年10.95%。

第十九条  補助事業者等は、第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときは、政令で定めるところにより、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、当該補助金等の額(その一部を納付した場合におけるその後の期間については、既納額を控除した額)につき年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない。
2  補助事業者等は、補助金等の返還を命ぜられ、これを納期日までに納付しなかつたときは、政令で定めるところにより、納期日の翌日から納付の日までの日数に応じ、その未納付額につき年十・九五パーセントの割合で計算した延滞金を国に納付しなければならない。
3  各省各庁の長は、前二項の場合において、やむを得ない事情があると認めるときは、政令で定めるところにより、加算金又は延滞金の全部又は一部を免除することができる。


ダム(例えば)建設を、

  • やめない
    • 補助金も出るし雇用も増えて地元が「潤う」が、無駄なダムができる
  • やめる
    • 加算金と場合によっては延滞金を支払わないといけないし雇用は増えないが、無駄なダムはできない。
  • -

ダム建設を打ち上げた自治体がこの選択肢のどちらかを取るかは大抵明白だろう。ダム用の補助金を別の用途に使用すればよいのでは、という着想も禁止されているし、結局計画しなければよい、という話にしたくもなるが、そうなると今度はそれを市民に説得できるかどうかが問われてくる。徹頭徹尾「建てること」を推進するストーリーがここにはある。


人倫にもとると非難する向きもあるだろうが、ここで問われるのは倫理ではなくて合理性に対する人の想像力だ。働けていた人を働けなくする時間の経過と、それがもたらす変化についての想像力だ。公共事業がきても結局地元は潤わない(たとえば)とかいう現実によって先のストーリーを支えていたひとつの合理性が歪んだとき、また別のストーリーでもってより合理的な「公共」的「事業」が一体なんであるのかをだれかが提示しなければならないと思うのだ。


下関新聞:「加算金公費負担は不当」 パーソン栃木が監査請求


タイトルでおやと思わせるが、その実「公費負担」が不当というところがポイントで、加算金そのものの是非は問われていない。